定期講座「言葉と身体による秘儀参入」(全12回)概要

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第1回 7月3日(金)「言葉と身体による秘儀参入〜人種差別と私〜」

米国での人種差別に端を発した社会問題は、コロナによって浮き彫りにされた根源的な問題の一つであると思います。アントロポゾフィーが人種差別を内包しているという批判は、ナチスとの結びつきをめぐる疑惑とともに以前から存在していますが、現在、改めて緊急の課題として浮上してきています。シュタイナーの人種にかかわる発言、および現代のアントロポゾフィーの代表的な文章をテキストとして、日本社会の文脈ともつなげながら、人種差別や民族差別が「秘儀参入」にどのような影響を及ぼすのかを考えます。

第2回 7月17日(金)「感染症の霊学」

昨今のコロナをめぐる状況の中で、ウイルスの起源について根拠に乏しい陰謀論から専門家による知見まで様々な見方が飛び交っています。シュタイナーの病原体についての記述は、アントロポゾフィーが最も誤解され、批判される部分の一つです。感染症という多くの人々に降りかかる出来事について、霊的な観点から考察する意味はどこにあるのでしょうか? 電磁波とウイルスの関連と病原体の霊的起源を取り沙汰することに何らかの違いがあるのでしょうか?霊的な背景を考慮することは、個人の主体的判断を曇らせるのか、支えるのかという観点からこのテーマに迫りたいと思います。

第3回 8月7日(金)「水俣学とアントロポゾフィー」

水俣病は原発と基地問題と並んで、近代日本の運命を考える上で避けて通ることのできない、大きくて深いテーマです。原田正純医師が提唱した「水俣学」は、かつてシュタイナーがヨーロッパの運命を感じる中で打ち出した「人間の知恵」をめぐる運動と共振するものがあると思っています。専門家と市民が問いを共有し、経験と知恵を持ち寄って答えを探ろうとする姿勢の中に、個人と民族、人類に関わる運命に対する個人の責任ある向き合い方が見えてきます。そこからシュタイナーが目指した自由大学の可能性を浮き彫りにしたいと思います。

第4回 8月21日(金)「ジェンダーと瞑想」

シュタイナーが示した修行の道は、自分に新しい能力を付け加えることではなく、育ちや教育を通してまとわりついた偏見や先入観を削ぎ落としていくことで、本来の純粋な知覚の可能性を育てることにありました。今日の私たちを縛っている最大の偏見がジェンダーをめぐる固定された価値観であると言えます。それではなぜ、宗教や霊的な探求に関わる人たちの多くに、極端なまでの男尊女卑の傾向がみられるのでしょうか? ジェンダーへのまなざしから、本来の秘儀参入の道が始まることを考えたいと思います。

第5回 9月4日(金)「越境者と故郷喪失者」

シュタイナーによれば、秘儀参入の条件は「故郷喪失者」としての自分を自覚することです。グローバル化の流れの中で、私たちは国境を越えて行き来することを当然と感じるようになりましたが、コロナ危機を経て国家単位の政策や国境閉鎖など、再び国境が私たちの意識の中に入り込んできました。霊的なものは国境を越えることができるのでしょうか? 喪失されるべき故郷と再び見出されるべき故郷という観点から、秘儀参入にとっての国家の意味を考えます。

第6回 9月25日(金)「エイズのメッセージ」

コロナをめぐる不安の中で、多くの人が1980年〜90年代に人類に衝撃を与えたエイズの出現を想起したと思います。それはエイズにおいても、Covid-19においても、人との接触が非常に意識されることになったからです。コロナの意味を見つめるためには、今再びエイズのメッセージを思い起こす必要があると思います。そこから秘儀参入を目指す人間が死と病気、個人と集団の運命に深い感性を働かせる必要を考えます。

第7回 10月9日(金)「脱学校化社会とシュタイナー教育」

1970年代に広く読まれたイヴァン・イリッチの『脱学校化社会』は、学校という制度の意味だけではなく人間の「知」のあり方そのものを問い直し、多くの人々に衝撃を与えました。シュタイナー学校は既存の学校や教育に対して総合的な知のあり方を提示しましたが、イリッチの学校という制度そのものへの批判にはまだ応えられていないと思います。シュタイナーがヴァルドルフ学校の延長として精神科学自由大学を提唱した背景には、イリッチと共通した既存の知のあり方に対する彼なりの問題提起があったと思います。そこに目を向けて初めて、精神科学自由大学はヨーゼフ・ボイスの国際自由大学と共通する、時代との繋がりを獲得することでしょう。その観点から秘儀参入とシュタイナーのいう「学校」との関連を考えます。

第8回 10月23日(金)「脱病院化社会とアントロポゾフィー医学」

学校とともに現代人の生活を大きく規定しているのが、病院を中心とした医療と保健制度だと言えます。第二次世界大戦後のアントロポゾフィーの発展は、まさにイヴァン・イリッチが批判した学校と病院を通して、その実践と成果を示してきました。しかし、これまでのシュタイナー教育とアントロポゾフィー医学のあり方は、既存の学校や病院という制度に変革を迫るものになっているでしょうか? 実はアントロポゾフィーの新しさは、学校教育と医学教育に農業が結びつくところに現れ、それが現在のゲーテアヌムでの医学・教育・農業部門の連携の試みの本質であると思われます。秘儀参入が人間を全体として捉えることからその一歩が始まるとすれば、人間、社会、自然が、教育、医療、農業を通して総合的に捉えられることの中に、私たちが霊的次元へと一歩を踏み出す意味があると言えます。そこから「社会における秘儀参入」の意味を考えます。

第9回 11月6日(金)「ベーシックインカムと社会三層化」

コロナ禍によって多くの人々の生活基盤が根底から崩れ去ろうとする中で、すべての人の基本所得を保障しようとするベーシックインカムの重要性が切実に感じられるようになりました。果たしてベーシックインカムがシュタイナーの社会三層化思想から派生するものなのかを巡っては様々な議論がありますが、ここでは「社会芸術」という観点からベーシックインカムの中の「価値の創造」を取り上げ、日本においてベーシックインカムを実現する意味と、それによる社会変革の可能性を秘儀参入との関連でみていきます。

第10回 11月20日(金)「占星術の現代的意味」

教育、医学、農業のいずれの領域でも、アントロポゾフィーの示唆の背景には、黄道十二宮、十二感覚論、十二の世界観といった宇宙的背景や、七つの生命プロセス、七つの金属、七年期の発達といった惑星や恒星との関連があり、それが多くの人々にとってアントロポゾフィーを怪しげなものに映らせています。星々の世界に対して、それを科学や疑似科学といった観点からではなく、一人ひとりの身近な感覚につながるものとして新しく捉え直すことはできるのでしょうか?秘儀参入における星座や惑星の意味とともに、主体的な個人の歩みにおける宇宙とのつながりを考えます。

第11回 12月4日(金)「タロットの現代的意味」

シュタイナー自身もタロットについて言及していますが、アントロポゾフィーにおけるカバラや数秘術、タロットとの関連は、マニアックな観点からしか取り上げられることはありません。しかし多くの人々が占いに関心を持っているように、人間の運命を捉えようとする占いの体系は、人間の生活を支える重要な要素だと言えます。シュタイナーのイマジネーション、インスピレーション、イントゥイションとの関連でタロットのイメージを見直すことで、現代人の心と秘儀参入とのつながりをみていきます。

第12回 12月18日(金)「現代の秘儀参入」

そもそも、なぜ「秘儀参入」という分かりにくい言葉を使うのでしょうか? ヨーゼフ・ボイスが「秘儀は中央駅で起こる」と言ったように、秘儀参入は日々の生活の至る所で起こっています。一人ひとりがそのことに気づき、自分の意志で秘儀参入を目指すことに何の意味があるのでしょうか? それによって実際に個人、社会、世界は変化するのでしょうか? 私たちが現代の日本で、シュタイナーが100年近く前に提示した人智学・アントロポゾフィー協会や精神科学(霊学)自由大学に関わることに、どんな意味があるのでしょうか? その問いに真剣に向き合い、私自身がたどり着いた答えを提示することで、それが参加者一人ひとりの問いや答えとどう響き合うのかを感じつつ、この講座を終えたいと思います。